ペットボトルの増加により,様々な問題が発生しています
「このサイトについて」でも述べましたが,ペットボトルは軽くて割れず,たいへん便利な容器です。特に飲料容器として重宝され,1990年代後半以降利用が増え,ペットボトルの原料のPET樹脂の90%が清涼飲料や酒類の容器として利用されています(図1)。
図1 PET樹脂の用途 図をクリックすると大きくなります。
利用の増加にやや遅れてリサイクルも盛んになり,全国のほとんどの自治体でペットボトルの回収とリサイクルが行われるようになりました。そんな便利で重宝するペットボトルを,なぜ「減らそう」というのでしょう。
リサイクルが盛んになっても,それで何もかもうまくいっているわけではありません。幾つかの問題が発生していますが,ここでは,以下の問題について取り上げ,なぜ「減らそう」と言っているのか紹介します。
- 消費の増加と後追いリサイクル
- 今も放置ペットボトルがいっぱい
- 海外に頼ったリサイクル
- 自治体費用の増大
- 地球温暖化をはじめ環境への影響
消費の増加と後追いリサイクル
もともと使われていたのはリターナブル容器
「後追いリサイクル」とは,このサイトの説明に作った造語です。ですが,以下の様子をよく表現していると思います。
まず,1970年頃までさかのぼりましょう。この当時,飲料容器の多くは,使用後販売店に返し,飲料メーカーや洗びん業者で洗浄した後,再使用するリターナブル容器(またはリユース容器ともいう)が使われていました。1970年以降スチール缶が増加し,1980年代後半からはアルミ缶が増加しました(図3)。スチール缶やアルミ缶のように,消費者が一度利用したきりで,再使用しない容器をワンウェイ容器と呼びます。スチール缶やアルミ缶は,一部をのぞき,ほとんどがごみになっていました。
図4 清涼飲料水の容器別生産量の推移(1996年以降)
スチール缶,アルミ缶,ペットボトル,増え続けるワンウェイ容器
スチールやアルミをごみにしてしまうのは貴重な資源のムダづかいになります。ごみとして排出された場合、「燃えないごみ」扱いしている市町村では最終処分場(ごみ埋立地)の負担となり、「燃やすごみ」扱いしている市町村では焼却炉の負担を高めました。もしポイ捨てされた場合、簡単に自然に戻る素材ではありませんので、不衛生であるだけでなく、美観を損ね,空き缶問題は全国的な関心を集めました。そこで「分ければ資源。混ぜればごみ」や「リサイクルは地球にやさしい」などの標語のもと,多くの市民がリサイクルの仕組みづくりに協力し,1990年代にはほとんどの自治体で資源回収が行われるようになりました。
空き缶リサイクルが定着する頃,ガラスビンでもリターナブル容器(再使用容器)ではないワンウェイびんが増えてきました。そして1990年代後半からはペットボトルの利用が増え,今では飲料容器の主役になっています(図4)。
リサイクルは盛んになったけれど…
リサイクルは盛んになりましたが,ある容器が登場し,広まり、リサイクルの仕組みを作ると、また新たな容器が登場し、主役に躍り出て、新たにリサイクルの仕組みづくりや再生品の需要確保が行われています。「後追いリサイクル」と表現したのは,回収する量や分別する種類が増え,仕組みづくりが後追いしていることを表現しています。コストも労力も増える一方です。決して「リサイクルはやめましょう」というのではありませんが,そろそろ「後追いリサイクル」から抜け出し,暮らしに必要なモノや量について,見つめ直す必要があるのではないでしょうか。
図5は,環境漫画家ハイムーン氏の「大リサイクル社会」。上に書いた状況がとてもよく表現されています。
図5 大リサイクル社会
今も放置ペットボトルがいっぱいある
京都の保津川では
図6は,京都市の北西,亀岡市内に事務局を置くNPO法人プロジェクト保津川が,同市を流れる保津川(京都盆地に入り嵐山の渡月橋で桂川と名前を変える)水系で,どのような放置ごみが回収されたかをまとめたものです。これを見ると,今も多くのペットボトルが放置されていることがわかります。
保津川に限ったことではない
このことは,保津川に限ったことではありません。下の写真は,2016年5月東京都内を流れる荒川河口から約3km上流で,NPO法人荒川クリーンエイド・フォーラムが撮影したものです。特に大雨の後など,上流から無数のペットボトルが流れてきて川岸を覆いつくします。いずれも,ペットボトルの分別やリサイクルが広まっていなかった頃の写真やグラフではありません。リサイクルが社会に広まった後でも,このような状況があります。
東京都荒川河岸に散乱するペットボトル 写真提供NPO法人荒川クリーンエイド・フォーラム
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海外に頼ったリサイクル
40%以上が海外でリサイクルされている
「これだけ放置ペットボトルがあるのなら,さらに分別を徹底し,河川をはじめ地域清掃に努めるべき」と言う人もいることでしょう。しかし,すでに国内のリサイクル産業の手に余るほど,ペットボトルが回収されています。
図7 国内外でのリサイクル率
図7は,PETボトルリサイクル推進協議会の2019年度年次報告書のデータをもとに作成したものです。日本国内で回収されているペットボトルの約4割が海外(大半が発展途上国)に持ち出されてリサイクルされています(京都市が市民から回収した使用済みペットボトルは,全量国内でリサイクルされています)。
肯定的な見方もあるけれど
海外に輸出されたペットボトルは安い工業原料として活用され,日本向けの製品にも使われていることでしょう。このことについて,「海外から求められるほど高い品質で排出されている」や「どこで利用されてもリサイクルされていることに変わりない」として肯定的に見る考えもあります。
中国ショックは突然の出来事ではない。
ただ,ハイムーン氏の「役割分担?(図8)」に見るように,「ごみづくりの国」と「ものづくりの国」といった関係が永続できるのか考える必要もあるでしょう。相手国内の事情により,「日本の廃ペットボトルはもう要らない」となった時,多くのペットボトルが行き場を失います。その懸念は杞憂ではありませんでした。2018年1月以降,世界最大の廃プラスチック受入国だった中国が,海外からの廃プラスチックの輸入を禁止しました。いわゆる「中国ショック」です。対象となるプラスチックの中にペットボトルも含まれています(ただし細断しフレーク状になったものは含まれません)。日本国内のプラスチックリサイクル市場は大混乱しましたが,中国政府は廃プラ輸入禁止を2017年7月に予告していたので,突然の禁止措置ではありません。
それどころか,今世紀に入り,中国は連綿と環境政策を強化してきてその延長としての施策です。
詳しくは,「今こそ脱プラ!」セミナー第2回報告をご覧ください。
では,国内のリサイクル産業の受入能力を高めたらよいのでしょうか。そのためにはリサイクル製品の需要を増やさないといけません。それが難しいことが長年にわたる海外輸出を常態化していました。たしかに、他のプラごみと違って、中国ショック以降もペットボトルごみは買い取ってくれる国があります。いつまた相手国の事情で、ペットボトルを含むプラごみの受け入れ制限が行われるかわかりません。「たくさん使って,たくさんリサイクルしよう。途上国に輸出すればいい。日本ではごみでも、途上国で資源だ」ではなく,増え続けるペットボトルを減らすことを考えましょう。
自治体費用の増大
ワンウェイ容器が増えると,利用していない人まで費用負担が必要
ここまでの説明で,リターナブル容器(またはリユース容器)とワンウェイ容器という言葉を使いました。使用後販売店に返し洗って何度も使う容器か,そうではない容器かの違いだと紹介しました。両者の違はそれだけではありません。リユースやリサイクルに必要な費用負担のあり方が大きく違います。
びんビールのようなリターナブル容器の場合,使用後の容器をリユースするための費用は,商品代に含まれています。つまり,購入した人(飲んだ人=受益者)が払っています。
ペットボトルをはじめ,缶や紙パックなどのワンウェイ容器は,使用後大半が地方自治体(市町村)の資源回収によって集められます。ペットボトルに限らず,ワンウェイ容器の種類と量の増加は,地方自治体の負担を増やします。
また,税金を使ってリサイクルするので,購入した本人(受益者)だけでなく,ワンウェイ容器を使っていない人も含めて,地域住民みんなで費用負担することになります。
事業者負担のある容器,ない容器がある
ワンウェイ容器を作り,使っているメーカーや販売店(以下,特定事業者)のリサイクル費用の負担はどうなっているのでしょうか。1997年に施行された「容器包装リサイクル法」は,ワンウェイ容器のリサイクル費用の負担を特定事業者にも求めています。ただし,費用負担が求められる容器と,求められない容器があります。また負担する費用も年によって変わります。
まず,費用負担が求められない容器を紹介しますと,スチール缶,アルミ缶、(牛乳パックなどの)紙パックがあります。自治体が市民から回収した資源物(スチールやアルミ)が,有償での引取先がある(売れる)場合,特定事業者の負担はありません。
ペットボトルの事業者負担
ペットボトルの場合,登場当初(1990年代)よりリサイクル需要が増え,円滑にリサイクルされているとして特定事業者の負担は年々少なくなりました(図9)。最近ではほぼゼロに近い額にまで下がっています。ただし「円滑なリサイクル」の背景には,消費者の丁寧な洗浄や分別などの「無償労働」と,自治体による税金を使った回収制度があります。回収後の異物除去も市町村の責任です。「売れる」といっても,売れるようにするために,消費者や自治体が多くの労力や費用を負担しています。
図9 ペットボトルリサイクル委託金の推移
「清涼飲料・茶・コ-ヒ-製造業の場合,簡易算定方式の係数を乗ずると,実際の委託金は上記金額のほぼ半分になる(平成28年度)」
地球温暖化をはじめ環境への影響
液体を遠くから運ぶと多くのエネルギーが必要
ペットボトル入り商品の中で,近年特に利用が拡大しているのは,ミネラルウォーターと緑茶飲料です。液体の緑茶飲料は,リーフ茶(茶葉から淹れる茶)と比べて多くの輸送エネルギーを必要とします。緑茶飲料の利用拡大は,ごみ問題だけでなく,エネルギー消費の増加にもつながっています。(緑茶飲料の96.7%がペットボトルで売られています。2018年)
図10 近年の清涼飲料の消費
また,ミネラルウォーターとリーフ茶は深い関係があります。茶葉からお茶を淹れる場合,ミネラルウォーターを利用する人が増えました。ミネラルウォーターは,水道水と比べてトータルで多くのエネルギーを必要とします。近年各地自治体の努力で水道水の品質が向上しているうえ,安全基準でも水道水の方が高い基準が設定されています。リーフ茶と水道水のセットでの利用は,省エネやエコドライブに負けないぐらい地球温暖化防止効果があります。
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緑茶飲料とミネラルウォーターは,代替手段が身近にある
ペットボトル入り商品の中でも特に,緑茶飲料やミネラルウォーターは,代替手段が身近にあります。リーフ茶や水道水がそれにあたります。
また,外出時にマイボトルに入れて持っていくことで,自販機に頼ることも少なくでき,出費を抑えることもできます。
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まとめ より上質な暮らしを志向して
「ペットボトルを減らそう」という呼びかけは,決してペットボトル入り商品の不買を求めるものではありません。また,無理な暮らしをしてまで「減らそう」と言っているのでもありません。現代人が失いつつある「お茶の時間」の見直しなど,暮らしの中にゆとりを見つけることで,特に意識することなく「ペットボトル飲料の利用が減った」というのが理想だと思います。
ここまで,「大量リサイクル型社会」の問題などを述べてきました。未来の人たちにどのような社会を引き継いでもらうのか,それを考えるきっかけに,ペットボトル入り商品とのつきあい方を見直してみませんか。